テント泊で黒部五郎岳に登ろうと計画していたが、どうも土、日曜日の天候がおもわしくない。散々迷った挙句笠ヶ 岳への日帰り登山へと変更する。新穂高温泉に入りしばらく準備等をしていると団体ツアーのバスが到着する。８月とは 思えないほど涼しい中、駐車場を出発した。

先行する男性１名の後から林道を歩くが、まだ４時を過ぎたばかりで周囲は真っ暗である。ヘッドランプも携行してい るが、前を行く男性の明かりで使用しなくても歩いていくことができた。少し明るくなってきた穴毛谷を左に見て林道を更 に進むと笠新道登山口となった。

２年前はここから直進して水晶岳・鷲羽岳に登って行ったことが思い出される。笠新道入口の水を飲み登山道へと入り、 長い急登が始まった。昨日の雨で濡れた登山道は木の根等で滑りやすいのでゆっくりと登って行った。少し登ると先程 歩いていた左俣谷の清流が見えた。

周囲はかなり明るくなり、木々の間から南方向が良く見えるようになって山頂付近に陽射しを浴びた焼岳と乗鞍岳が見 え始めた。

笠新道のきつい登りは続き周囲には大きな樹木はなくなる。朝露に濡れたシモツケソウやマルバダケブキ等のお花 畑を通過し、展望が開けると左俣谷の向こうには槍ヶ岳から穂高連峰の雄大な景色が見えるようになる。いつかあの峰 を縦走してみたいと思いながら見つめていた。

その後も急登を続けトリカブトやタテヤマウツボグサ咲くお花畑を過ぎ森林限界を過ぎると杓子平に登りきる。杓子平か らはこれから向かう稜線がはっきりと見え、笠ヶ岳の雄姿も快晴の空の下に映えていた。

杓子平から右手の稜線へと向かい歩き出す。この辺りはお花畑が広がるらしいが、８月も後半となりあまり花は見る ことはできなかった。稜線への登りに入り振り返ると先程までは良く見えていた槍ヶ岳から穂高連峰は雲の中に消えて いた。

稜線への分岐ではヨツバシオガマ、ウサギギク等の花々が岩々の間に咲いていた。上部からは登山者が何人か下って来ている。御来光を見た後笠ヶ岳を下って 来たのであろう。一組の御夫婦から「何時に登って来たの」と言われ「４時に新穂高温泉を出て来ました」と答えると「どうも早いと思いました」と納得していた。

稜線に飛び出るとハイマツが登山道に覆うように生えていた。やはり槍ヶ岳から穂高連峰は見えないままで、向かう笠 ヶ岳の山頂付近にも雲がかかっている。稜線を歩き出し少し下ると登山道右側のハイマツの中にライチョウの親子を発 見、子はハイマツの中に見えなくなるが親鳥は逃げも隠れもしないで私の方を見つめている。

去年の塩見岳以来のライチョウに別れを告げ稜線歩きを続ける。ここであった若い男性と帰りは一緒に新穂高温泉に歩 くことになる。抜戸岩の切通しを抜けるとすぐ目の前に笠ヶ岳が迫りだす。笠ヶ岳山荘のテントサイトまで登ると山荘は近 い。

笠ヶ岳山荘でビールを購入して、いざ山頂へと最後の坂を行く。１０分程で山頂に到着、山頂標示の横でビールを飲 んでカップヌードルを食べる。隠れていた槍ヶ岳から穂高連峰の山頂部分だけが島のように雲海の上に頭を出している のが見える。

しかしその光景はすぐにまた雲の中へと消えていってしまった。山頂でくつろいでいると若い男性グループが到着、じっく りと休んだ私は交代するように山頂を後にするのであった。笠ヶ岳山荘へあっという間に下って先程の登山道を引き返 す。

ハイマツの中の登山道を歩き、ライチョウがいた付近を通過するが帰りは会うことはなかった。次々と登山者が笠ヶ岳方 面へと向かって来る。稜線分岐から杓子平へと下り朝は苦戦した笠新道を快適に下って行くとここでも多くの団体の登 山者とすれ違った。

笠新道登山口まで下ると朝ライチョウがいた場所であった若い男性登山者と再び会い新穂高温泉まで同行する。聞けば ６日間で北アルプスを歩いて来たとのことであった。天候はあまり良くなかったが男性登山者は達成感に満ちているよう に思われるのであった。

話をしているとあっという間に新穂高温泉に下って男性登山者と別れる。北アルプスはやはりいいなと思いながら帰路に向かうのであった。